揚自若、只もう見事の二字に尽きるすばらしさでした。いや、これこそはまさしく技《わざ》の冴え、肝《きも》の太さ、胆《たん》の冴えの目に見えぬ威圧に違いないのです。投げては襲い、襲ってはまた投げつけて、必死に挑《いど》みつづけていたが、泰然自若としながら顔色一つ変えぬ主水之介のすさまじい胆力と水際立った技の冴えに、いずれも農民達は知らず知らずに恐怖と威圧を覚えうけたものか、誰から先にとなくじりじりとあとに引いて、石つぶての襲撃もどこから先に止まったともなく止まりました。いや、農民達ばかりではない。ことごとく舌を巻いたらしいのはあの老神官です。呆然自失したように手槍を杖についたまま、じいッと主水之介のすばらしい男前にやや暫し見惚れていたが、のそりのそり近づいて来ると、上から下へじろじろと探るように見眺めながら、ぽつりと言いました。
「貴公、なかなか――」
「何でござる」
「当節珍らしい逸品《いっぴん》でおじゃるな」
「わはは、先ず左様のう。自慢はしとうないが、焼き加減、味加減、出来は少し上等のつもりじゃ。刀剣ならば先ず平安城流でござろうかな。大のたれ、荒匂《あらにお》い、斬り手によっては血音
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