身分改めやら、何かと手きびしく御吟味なさったあげ句、少しなりとも御不審の節々がおありの御武家は容赦なく引っ立て、あまつさえ宿の亭主も巻添え喰って入牢させられたり、手錠足止めに出会いましたり、兎角に迷惑なことばかりでござりますゆえ、触《さわ》らぬ神に祟《たた》りなしとみなお侍様と見れば、ああして逃げを張っているのでござります」
「ヘゲタレよ喃」
「は?……」
「京ではそのような食べ物のよろしくない者共をヘゲタレと申すとよ。折があったら伊達侯に申し伝えい。時々|鰻《うなぎ》位用いたとても六十五万石の大身代《おおしんだい》では減るようなこともあるまいゆえ、三日に一度位は油の乗った大串《おおぐし》を充分に食して、もッと胆を練るようにとな。いずれにしても、仙台伊達と言えば加賀島津につづく大藩じゃ。ましてや独眼竜将軍の流れを汲む者が、そのようにせせこましゅうしてどうなるものぞ。では、何じゃな。そちのところはあとの迷惑面倒も覚悟の前で身共に一夜の宿を貸すと申すのじゃな」
「へえい。一夜も百夜もお貸しする段ではござりませぬ。お殿様に御不審の廉《かど》なぞあろう筈もござりませぬゆえ、およろしくば御案内致
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