すが、それにしてもちと不審じゃな」
「何が御不審でござります」
「他の旅籠では申し合わせたように身共を袖に致しておるのに、そちの宿ばかり好んで泊めようと言うのが不審じゃと申すのよ。一体どうしたわけじゃ」
「アハハハ。そのことでござりまするか。御尤も様でござります。いえなに仔細を打ち割って見れば他愛もないこと、御武家様をお泊め申せばお届けやら手続きやら、何かとあとで面倒でござりますゆえ、それをうるさがってどこの宿でも体よくお断りしているだけのことでござりまするよ」
「異な事を申すよ喃。二本差す者とても旅に出て行き暮れたならば宿をとらねばならぬ。武家を泊めなば何が面倒なのじゃ。それが昔から当仙台伊達家の家風じゃと申すか」
「いえ、御家風ではござりませぬ。そのような馬鹿げた御家風なぞある筈もござりませぬが、どうしたことやら、近頃になって俄かに御取締りがきびしゅうなったのでござります。御浪人衆は元より御主持ちの御武家様でござりましょうとも、他国より御越しのお侍さまはひとり残らず届け出ろときつい御達しでござりましてな、御届け致しますればすぐさま御係り役人の方々が大勢してお越しのうえ、宿改めやら御
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