」
「何の、他愛もない。今一度寸を縮めい」
「はっ。――的は二寸――」
サラリ、土壇近くの焔がゆらめいたかと見るまに、同じくプツリ黒星!
「天晴れにござります」
「まだ早い。事のついでじゃ。一条流秘芸の重ね箭《や》を見せてとらそうぞ。的替えい」
英膳、鞠躬如《きくきゅうじょ》としてつけ替えたのは一寸角の金的です。
ぐッと丹田に心気をこめて、狙い定まったか、射て放たれた矢は同しくプツリ、返す弓弦に二ノ矢をついだかと見るまに、今的中したその一ノ矢の矢筈の芯に、ヒョウと射て放たれた次のその矢が、ジャリジャリと音立てて突きささりました。
「お見事! お見事! 英膳、言葉もござりませぬ」
「左様のう。先ず今のこの重ね矢位ならば賞められてもよかろうぞ」
莞爾としながら静かにふりむくと、自若として揶揄《やゆ》しつつ言ったことでした。
「どうじゃ見たか。スン台武士のお歴々。弓はこうスて射るものぞ。アハハハ。江戸旗本にはな、この早乙女主水之介のごとき弓達者が掃くほどおるわ。のちのちまでの語り草にせい」
途端!――不意です。
隊長らしいあのいち人が目配せもろ共さッと一同を引き具して主水之介の身
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