のお手並久方ぶりに拝見とは、いかにも不審でした。
 しかし、そのまに土壇《どたん》のまわりは、数本の百目ろうそくが立て廻されて、赤々と輝くばかり――。
 いぶかりつつも主水之介は、さッと片肌はねてのけると、おもむろに手にしたは飾り重籐、颯爽《さっそう》としたその英姿! 凛然《りんぜん》としたその弓姿《ゆんすがた》! 土壇のあたり、皎々《こうこう》としてまばゆく照り栄え、矢場のここかしこ仙台藩士の色めき立って、打ち睨むその目、にぎりしめる柄頭《つかがしら》、一抹の殺気妖々としてたなびきながら、主水之介が手にせる重籐、キリキリとまた音もなく引き絞《しぼ》られたかと思われるや、ヒュウと弦音高く切って放たれたかと見るまに的は五寸、当りは黒星――。
「お見事!」
 冴え冴えとした声は英膳でした。
 同時に莞爾《かんじ》としながら言った主水之介の声もわるくない。
「まずざッとこんなものじゃ。五寸の的などに十本射通すがものはなかろうぞ。あるじ、的替えい」
「はっ」
 寸を縮めてつけ替えたのは三寸。
 エイ、ヒョウ、サッと射て放たれた矢は、同しくプツリとまた黒星でした。
「御見事、さすがにござります!
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