邪心《じゃしん》あるべからず。されば賭仕合《かけじあい》い、賭勝負、およそ武道の本義に悖《もと》るべき所業は夢断じて致すべからず、とな。弓は即ち剣に次ぐの表芸。さるを何ぞよ。おぬし達が先刻よりの不埒《ふらち》道断《どうだん》な所業は何じゃ。笑うぞ、嗤《わら》うぞ。よろしくばもッと笑おうかい。アハハハ。ウフフ。気に入らぬかな」
滔々《とうとう》颯爽《さっそう》として士道の本義を説いての傍若無人な高笑いに、躪《にじ》り寄った若侍は返す言葉もなく、ぐッと二の句につまりました。しかし、つまりながらもちらりと何か目交ぜを送ったかと見るまに、笑止です。居合わした二十名近くの藩士達が、いずれもプツリプツリと鯉口切りつつ、それが最初からの手筈ででもあるかのごとくに、じりじりと主水之介の周囲を取り巻きました。
「ほほう、おいでじゃな。何かは知らぬが退屈払いして下さるとは忝《かたじ》けない。しかしじゃ。十箭《とうや》のうち五本も射はずすナマリ武士が、人がましゅう鯉口切るとは片腹痛かろうぞ」
「言うなッ、ほざくなッ」
つつうと進み出ると、噛みつくように言ったのは擬《まが》い鎮西《ちんぜい》八郎のあの大兵
前へ
次へ
全44ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング