早乙女笑いと言うか、いかにもおかしくてたまらないと言った、豪快無双の高笑いだったからです。中でも隊長と覚しき最初の射手のあの若侍が、ぐッと癇《かん》にこたえたと見えて、気色《けしき》ばみながらつかつかと近づいて来ると、俄然、火蓋を切って放ちました。
「な、なにがおかしゅうござる!」
「………」
「返答聞きましょう! 何がおかしゅうてお笑い召さった」
「身共かな」
言いようがない。まことにその瓢々《ひょうひょう》悠々泰然とした落ち付きぶりというものは、何ともかとも言いようがないのです。のっそりと歩み寄ると、声からしてごく静かでした。
「御用のあるのは身共かな」
「おとぼけ召さるなッ。尊公に用あればこそ尊公に対《むか》って物を申しているのじゃ。何がおかしゅうて無遠慮な高笑い召さった」
「アハハハ。その事かよ。人はな――」
「なにッ」
「静かに、静かに。そのような力味声《りきみごえ》出さば腹が減ろうぞ。もっとおとなしゅう物を申せい。人はな、笑いたい時笑い、泣きたい時泣くものと、高天原八百万《たかまがはらやおよろず》の御神達が、この世をお造り給いし時より相場が決ってじゃ。身共とて人間ぞよ。笑
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