と客を呼ぶのに不思議はないが、それにしてもその騒々しさと言うものはない。
「いかがでござります。エエいかがでござります。手前のところは当城下第一の旅籠屋でござります。夜具は上等、お泊り貸は格安、いかがでござります。エエいかがでござります」
「いえ、わたくしの方も勉強第一の旅籠でござります。座スクはツグの間付きの離れ造り、お米は秋田荘内の飛び切り上等、御菜も二ノ膳つきでござります。それで御泊り賃はたった百文、いかがでござります。エエいかがでござります」
「いえいえ、同ズことならわたくス共の方がよろしゅうござります。揉み療治按摩は定雇《じょうやと》い、給仕《きゅうズ》の女は痩せたの肥ったのお好み次第《スだい》の別嬪《べっぴん》ばかり、物は試スにござりますゆえ、いかがでござります。欺《だま》されたと思うて御泊りなされませ。エエいかがでござります」
だが、少し奇怪でした。ほかの旅人達には、歩行も出来ぬ程客引き共がつけ廻って、うるさく呼びかけているのに、どうしたことかわが早乙女主水之介のところへは、ひとりも寄って来ないのです。客としては元より上乗、身分素姓は言うまでもないこと、お茶代宿料およそ
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