てか、見えつ隠れつ次第に数を増して、それも血気ざかりの屈強そうな若侍達ばかりが、行く方動く方へと尾行するのです。だが、退屈男は実に不敵でした。刻一刻に高まる殺気を却って楽しむかのように、ふらりふらりと帰っていったのは宿の千種屋――。
ふと見るとその辺にも、夕陽の散り敷く町角の彼方此方に七八人の影がちらと動きました。
「ほほう、大分御念入りな御見張りじゃな。この分ならば、あの触れ看板にも二三匹何ぞ大物がかかっているやも知れぬ。――亭主! 亭主! いや番頭!」
ずいと這入った出合い頭《がしら》――、不気味ににっこり笑って奥から姿を見せたのは、いつのまに帰って来たのか前夜のあの謎を秘めた若者です。
「御かえりなさいまし。御遊行でござりましたか」
「遊行なぞと気取った事を申しおるな。番頭風情が心得おる言葉ではなかろうぞ。そちこそゆうべからいずれを泳ぎおった」
「恐れ入ります。えへへへへへ。ちと粋《いき》すじな向きでござりましてな。殿様も大分御退屈のようでござりまするな」
「退屈なら何といたした。身共にもゆうべのその粋筋な向きとやらを、一人二人世話すると申すか」
「御所望でござりましたら――
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