は束の間、――ふらりふらりと歩き出すと、影を追う影のごとくに、にょきにょきとまたいずれからか姿を現して尾行し始めました。
右に廻れば右に廻り、左に廻ればうしろの影もまた左に追って、奇怪な尾行者を随えながら、のっしのっしとさしかかったのが青葉城大手前の大橋――。そこから宿のある伝馬町までへは、大町通りの広い町筋をまっすぐに一本道です。いつのまにか落ちかかった夕陽をまともに浴びながら、その通りをなおも悠然と行く程に、尾行の藩士達はだんだんと数を増して、八人が十人となり、十人が十三人となり、やがて全部では十七八人の一団となりました。しかも、いった先いった先で、伝令らしいものが栗鼠《りす》のごとくに駈け近づくと、何か尾行者に囁きながら、そのたびに尾行の藩士達が色めき立って、刻々に穏かならぬ気勢が高まりました。
何かは知らぬが、およそ不思議というのほかはない。謎を秘めたあの番頭が、ゆうべから姿を消したというのも不審の種です。それに関わりがあるのかないのか、宿改めの係りの役人達が姿を見せないのも大いに奇怪です。あまつさえ、城下の町々は物情騒然としているのでした。その上に何のためにか何の目的あっ
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