殺気ばかりでもない、不気味なその静寂の奥に、危機を孕んだ暗いその殺気の奥に、なにかこう物情騒然とした慌ただしさがほの見えました。しかも街全体が、城下全体が、何とはなく変に色めき立って見えるのです。殊に退屈男の目を強く射たものは、町々辻々を固めている物々しい人の影です。何か只ならぬ詮議の者でもがあるらしく、市中警固の係り役人共と覚しき藩士の面々が、いずれも異様な緊張ぶりを示して、あちらに一団、こちらに一隊、行く先の要所々々に佇んでいるのが見えました。
 否! 否! そればかりではない。あてもなく廻り廻って、伊達家菩提所の瑞鳳寺前《ずいほうじまえ》までいったとき、ふと気がつくと、たしかに自分の尾行者と覚しき若侍の影がちらりと目につきました。それも三人! 五人! 八人!
「ほほう。味な御供が御警衛じゃな。だんだんと面白うなって参ったわい。――これよ! 人足! 人足と申すに! 苦しゅうない。近う参れッ。供先き許してとらすぞ。近う参れッ」
 くるりうしろを向くと、あの眉間疵を冴えやかに光らして、揶揄《やゆ》するように呼びかけました。しかしその刹那! どこかへかくれたか、もういない。
 と見えたの
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