ったのに何の不思議があろうかい。それとも仙台の方々は一生お笑い召さらぬかな」
「そのようなこときいているのではござらぬわッ。手前達の何がおかしゅうて馬鹿笑い召さったのじゃ」
「ははん、そのことか。江戸ではな」
「江戸が何だと申すのじゃ」
「弓は射るもの当てるもの、江戸で引いても当らぬものは富籤《とみくじ》位《ぐらい》じゃ。第一――」
「第一何だと申すのじゃ。何が何だと申すのじゃッ」
「おぬし達のことよ。見ればそれぞれ大小二腰ずつたばさんでおいでじゃが、まさかに似せ侍ではござるまいてな」
「なにッ。似せ侍とは何を申すかッ。どこを以って左様な雑言《ぞうごん》さるるのじゃッ。怪しからぬことほざき召さると、仙台武士の名にかけても許しませぬぞッ」
「ウフフフ。その仙台武士がおかしいのよ。ナマリ節《ぶし》じゃかズウズウ武士じゃか存ぜぬが、まこと武士《もののふ》ならば武士が表芸の弓修業に賭物《かけもの》致すとは何ごとぞよ。その昔|剣聖《けんせい》上泉伊勢守《こうずみいせのかみ》も武人心得おくべき条々に遺訓して仰せじゃ。それ、武は覇者《はじゃ》の道にして、心、王者の心を以て旨となす。明皎々として一点の邪心《じゃしん》あるべからず。されば賭仕合《かけじあい》い、賭勝負、およそ武道の本義に悖《もと》るべき所業は夢断じて致すべからず、とな。弓は即ち剣に次ぐの表芸。さるを何ぞよ。おぬし達が先刻よりの不埒《ふらち》道断《どうだん》な所業は何じゃ。笑うぞ、嗤《わら》うぞ。よろしくばもッと笑おうかい。アハハハ。ウフフ。気に入らぬかな」
滔々《とうとう》颯爽《さっそう》として士道の本義を説いての傍若無人な高笑いに、躪《にじ》り寄った若侍は返す言葉もなく、ぐッと二の句につまりました。しかし、つまりながらもちらりと何か目交ぜを送ったかと見るまに、笑止です。居合わした二十名近くの藩士達が、いずれもプツリプツリと鯉口切りつつ、それが最初からの手筈ででもあるかのごとくに、じりじりと主水之介の周囲を取り巻きました。
「ほほう、おいでじゃな。何かは知らぬが退屈払いして下さるとは忝《かたじ》けない。しかしじゃ。十箭《とうや》のうち五本も射はずすナマリ武士が、人がましゅう鯉口切るとは片腹痛かろうぞ」
「言うなッ、ほざくなッ」
つつうと進み出ると、噛みつくように言ったのは擬《まが》い鎮西《ちんぜい》八郎のあの大兵
前へ
次へ
全22ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング