出物の景品にそそのかされでもしたかのごとく、三人目が飛び出して引きしぼったが、的中したのは同じ四本です。
「今度は手前じゃ」
「いや、拙者が早いよ。年の順じゃ。お手際見事なところを見物せい」
 先を争いながら出て来た四人目がまたやはり四本でした、五人目が少し出来て五本。
「口程もない方々じゃな。お気の毒じゃが、然らば拙者があの引き出物頂戴致そうよ。指を銜《くわ》えて見ていさっしゃい」
 広言吐きながらのっしのっしと現れたのは、鎮西《ちんぜい》の八郎が再来ではないかと思われる、六尺豊かの大兵漢です。膂力《りょりょく》また衆に秀でていると見えて、ひと際すぐれた強力《ごうきゅう》を満月に引きしぼりながら、気取りに気取って射放ったまでは大層もなく立派だったが、何とも笑止千万なことに的中したのはたった二本でした。その途端!
「ウフフフ。アハハハハ。笑止よ喃《のう》。ウフフフ、アハハハ」
 爆発するような笑い声があがりました。誰でもない。退屈旗本の早乙女主水之介です。同時に目色を変えて競射に夢中になっていた面々が、さッと色めき立ちました。無理もない。笑ったその笑い声というものが、直参笑いと言うか、早乙女笑いと言うか、いかにもおかしくてたまらないと言った、豪快無双の高笑いだったからです。中でも隊長と覚しき最初の射手のあの若侍が、ぐッと癇《かん》にこたえたと見えて、気色《けしき》ばみながらつかつかと近づいて来ると、俄然、火蓋を切って放ちました。
「な、なにがおかしゅうござる!」
「………」
「返答聞きましょう! 何がおかしゅうてお笑い召さった」
「身共かな」
 言いようがない。まことにその瓢々《ひょうひょう》悠々泰然とした落ち付きぶりというものは、何ともかとも言いようがないのです。のっそりと歩み寄ると、声からしてごく静かでした。
「御用のあるのは身共かな」
「おとぼけ召さるなッ。尊公に用あればこそ尊公に対《むか》って物を申しているのじゃ。何がおかしゅうて無遠慮な高笑い召さった」
「アハハハ。その事かよ。人はな――」
「なにッ」
「静かに、静かに。そのような力味声《りきみごえ》出さば腹が減ろうぞ。もっとおとなしゅう物を申せい。人はな、笑いたい時笑い、泣きたい時泣くものと、高天原八百万《たかまがはらやおよろず》の御神達が、この世をお造り給いし時より相場が決ってじゃ。身共とて人間ぞよ。笑
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