うた挙句、御仏に仕えるお方じゃ、いっそわたしも髪をおろして尼姿になりましたならば、いいえ、髪をおろして、尼姿に窶《やつ》し、念日様のお弟子になりましたならば、女と怪しむ者もござりませぬ筈ゆえ、朝夕恋しいお方のお側《そば》にもいられようと、こっそり家を抜け出し、今朝ほどのようにああしてこのお山へ上ったのでござります。幸い誰にも見咎《みとが》められずに首尾よう念日様のお手で黒髪を切りおとし、このような尼姿に、いいえ、ひと目を晦《くら》ます尼姿になることが出来ましたなれど、あの院代様に、さき程お争いのあの玄長様に、乳房を――いいえ、女である事を看破《みやぶ》られましたが運のつき、――その場に愛《いと》しい念日様をくくしあげて、女犯《にょぼん》の罪を犯した法敵じゃ、大罪人じゃと、むごい御折檻《ごせっかん》をなさいますばかりか、そう言う玄長様が何といういやらしいお方でござりましょう。宵からずっと今の先迄わたくしを一室にとじこめて、淫《みだ》らがましいことばかりおっしゃるのでござります。それゆえどうぞして逃げ出そうと思うておりましたところへ、この騒動が降って湧きましたゆえ、これ幸いとあそこの蔭まで
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