狼藉者とは何を申すかッ」
 ぴたりそれを一|喝《かつ》しておくと、退屈男は自若《じじゃく》として詰《なじ》りました。
「いらぬ邪魔立て致して、御僧は何者じゃ」
「当行学院御院主、昨秋|来《らい》関東|御巡錫中《ごじゅんしゃくちゅう》の故を以て、その留守を預かる院代《いんだい》玄長《げんちょう》と申す者じゃ。邪魔立て致すとは何を暴言申さるるか、霊地の庭先荒さば仏罰覿面《ぶつばつてきめん》に下り申すぞッ」
「控えさっしゃい。荒してならぬ霊地に怪しき女掏摸めが徘徊《はいかい》致せしところ見届けたればこそ、これまで追い込んで参ったのじゃ。御僧それなる女を匿《かくま》い致す御所存か!」
「なに! 霊地を荒す女掏摸とな。いつ逃げこんだのじゃ。いつそのような者が当院に逃げ込んだと申さるるのじゃ」
「おとぼけ召さるなッ、その衣の袖下かいくぐって逃げ込んだのを、この二つのまなこでとくと見たのじゃ。膝元荒す鼠賊《そぞく》風情《ふぜい》を要らぬ匿い立て致さば、当山御|貫主《かんす》に対しても申し訳なかろうぞ」
「黙らっしゃい。要らぬ匿い立てとは何を申すか! よしんば当院に逃げ込んだがまことであろうと、窮鳥《
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