、おいらの方が早えじゃねえか、俺が見つけたお客だよ」
 鈴のぬしの馬子達に違いない。暫く途絶えたかと思うとまた、静かな朝の深い霧の中から、夢色のしっとりと淡白いその霧の幕をふるわせて、はげしく罵り合う声が聞えました。
「うるせえ野郎だな。どけッてたらどきなよ。お客様はおいらの馬に乗りたがっているじゃねえか。しつこい真似すると承知しねえぞ」
「利いた風なセリフ吐《ぬ》かすないッ。うぬこそしつこいじゃねえか。おいらの馬にこそ乗りたがっていらッしゃるんだ。邪魔ッ気な真似するとひッぱたくぞ」
「畜生ッ、叩《た》てえたな。おらの馬を叩てえたな。ようしッ、俺も叩てえてやるぞ」
「べらぼうめッ。叩いたんじゃねえや。ちょッとさすったばかりじゃねえか。叩きゃおいらも叩いてやるぞ」
「野郎ッ、やったな!」
「やったがどうした!」
「前へ出ろッ、こうなりゃ腕ずくでもこのお客は取って見せるんだ。前へ出ろッ」
「面白れえ、俺も腕にかけて取って見せらあ、さあ出ろッ」
 ドタッ、と筋肉の相搏《あいう》つ音がきこえました。――しかしそのとき、
「わははは。わははは。やりおるな。なかなか活溌じゃ。活溌じゃ。いや勇ましい
前へ 次へ
全41ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング