して呼ばわりました。
「下郎共が無礼仕ったゆえ、直参旗本早乙女主水之介、松平の御前の御諚《ごじょう》によって、とくと、承わりたい一儀がござる。島津殿、お墨付にござるぞ。乗物棄てさっしゃい」
「………」
「なぜお躊《ため》らい召さる。征夷将軍がお墨付に対《むか》って、乗物のままは無礼でござろうぞ。※[#「※」は「勹」の中に「夕」、第3水準1−14−76、152−上−2]々《そうそう》に土下座さっしゃい」
 むッとした容子だったが、大隅、薩摩、日向三カ国の太守と雖も、江戸八百万石御威光そのものなる御墨付の前には気の毒ながら塵芥《ちりあくた》です。
「ははっ――、修理太夫控えましてござります」
 倉皇《そうこう》としながら土の埃の街道ににじり出て、頭《かしら》も低く平伏したのを小気味よげに見下ろしながら、わが退屈男はやんわりと皮肉攻めの搦手《からめて》から浴びせかけました。
「念のために承わる。今しがた、御門前を騒がしたるあの下郎共は、御身《おんみ》が家臣でござろうな」
「左様にござります。それが何か?」
「控えさっしゃい。それが何かとは何事にござる。臣は即ち主侯の手足も同然、家臣の者が不埒
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