の不埒は即ち藩主の不埒じゃ。七十三万石何するものぞ。ましてや塵芥《ちりあくた》にも等しい陪臣共《またものども》が、大藩の威光を笠に着て、今のごとき横道な振舞い致したとあっては、よし天下のすべてが見逃そうとも、早乙女主水之介いち人は断じて容赦ならぬ。いや、面白いぞ、面白いぞ。島津が対手ならば、久方ぶりに肝《きも》ならしも出来ると申すものじゃ。街道の釣男、飛んだところで思わぬ大漁に会うたわい。では、追っつけ薩摩の行列、練って参るであろうな」
「はっ、恐らくあともう四半刻とは間があるまいと存じます。それゆえ今の二人も、うちの殿様の御容子がどんなか、こっそりと探りに飛んでいったに相違ござりませぬ」
「何のことじゃ、不意に異なこと申したようじゃが、うちの殿様とは、どなたのことじゃ」
「わたくし共長沢村の御領主様でござります」
「はてのう、一向に覚えないが、どなたのことじゃ」
「ぐずり松平のお殿様でござります」
「なに! ぐずり松平のお殿様とな! はてのう、きいたようでもあり、きかぬようでもあるが、その殿の御容子を探りに参るとは、一体どうした仔細じゃ」
「どうもこうもござりませぬ。ぐずり松平のお殿
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