石積んでもきかれぬ言葉じゃ。なにをかくそう、身共の先祖も同じこの国育ち、そうきいては意地になっても取らせいではおかぬ。早う手を出せ」
「では、あの、お旦那様も――」
「そうよ。権現様御自慢の八万騎旗本じゃ」
「そうでござりましたか。道理でちッと――」
「ちッといかが致した」
「類のない御気性のお方と、男惚れしていたのでござります」
「男惚れとは申したな、いや話せるぞ、話せるぞ。ならばこれなる十両、惚れたしるしに取ると申すか」
「頂きまするでござります。頂きませねばお叱りのあるのは必定、それがまた三河育ちの御殿様達が御自慢の御気風でござりましょうゆえ、喜んで頂戴いたしまするでござります」
「いや申したな、申したな、なかなか気の利いたことを申す奴じゃ。ついでにもう十両遣わそう。そちらの十両は馬の代、こちらの十両は身共もそちへ惚れたしるしの結納金じゃ。これで少し胸がすッと致したわい。だが、それにつけても――」
心憎いは今の二人です。
「目ざした先はまさしく東《あずま》じゃ。今より急いで追わばどこぞの宿《しゅく》で会うやも知れぬが、いずれの藩士共かな」
「薩摩の方々でござります」
「なに!
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