慌てふためいて雑兵ばらが、呻き苦しんでいる四人の者を置去りにしながら逃げ去っていったのを、退屈男は小気味よげに見眺めつつ、静かに磔柱の傍に歩みよると、色蒼ざめて生きた心地もないもののように、脅えふるえながらくくられていた珠数屋の大尽のいましめを、プツリと切り放ちました。
「あ、ありがとうござります! ようお助け下さりました。い、いのちの御恩人でござります! 金も、金も、何程たりとも差しあげまするでござります!」
 ぺたりと這いつくばって言ったのを、
「またしても金々と申すか! 小判の力一つで世間を渡ろうとしたればこそ、このような目にも会うたのじゃ。その了見、そちも向後《こうご》入れ替えたらよかろうぞ。表に駕籠が待っている筈じゃ。早う行けッ」
 一喝しながら去らしておいて、退屈男は静かに懐紙《かいし》を取り出すと、うごめき苦しみながら、のた打ち廻っている四人の者の肩口からぶつぶつと噴きあげている血のりをおのが指先に、代る代るぬりつけて、燃えおちかかった篝火《かがりび》をたよりに、ためつすかしつ次のごとくに書きつけました。

「当職所司代は名判官と承わる。これなる四人の公盗共が掠《かす》
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