ぬぞッ」
「控えい!」
ずばりとそれを一|喝《かつ》すると、胆《たん》まことに斗《と》のごとし! 声また爽やかにわが退屈男ならでは言えぬ一語です。
「大科人とは何を申すか! 公儀のおん名騙ったのではない。公儀お直参の旗本は、即ち御公儀も同然じゃ。――その方公旗本は禄少きと雖も心格式|自《おのずか》ら卑しゅうすべからず、即ち汝等直参は徳川旗本の柱石なれば、子々孫々に至るまで、将軍家お手足と心得べしとは、東照権現様《とうしょうごんげんさま》御遺訓にもある通りじゃ。端役人共ッ、頭《ず》が高かろうぞ。もそッと神妙に出迎えせいッ」
「言うなッ。言うなッ、雑言《ぞうげん》申さるるなッ。いか程小理屈ぬかそうと、夜中|胡散《うさん》な者の通行は厳禁じゃッ、戻りませいッ、戻りませいッ。この上四ノ五ノ申さるるならば、腕にかけても搦《から》めとってお見せ申すぞッ」
「控えろッ。胡散な者とは何事じゃ。さき程その方共は何と申した。公儀お使者ならば通行さしつかえないと申した筈でないか。即ち、われらは立派なお使者じゃ。行列つくって出迎えせい」
「まだ四ノ五ノ申しおるなッ。まことお使者ならば、公儀お差下しのお手判が
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