この通り夜道をかけて飛んで来たんでござんす! お早く! お早く! 早いところ開門しておくんなせえまし!」
「いかさま替肩付きで急ぎのようじゃな! 者共ッ、者共ッ、開門さッしゃい! 早く開門してあげさッしゃい」
 打ちうろたえながらギギギイと観音開きにあけたのを、編笠片手にぬッと駕籠の中から、ぬッと悠々と姿を見せたのはわが退屈男です。
「よよッ。うぬかッ、うぬかッ、うぬが計ったかッ、うぬが計ったかッ」
 歯ぎしり噛んで怒号したがもう遅い。
「お出迎い御苦労々々々。夜中大儀であった。遠慮のう通って参るぞ」
 至っておちつき払いながら退屈男は、ずいと門内に通りました。だが、通してしまったら、二人の者達にとっては一大事に違いないのです。プツリともう鯉口切って、固めの小者達にも命じながらバラバラッとその行く手に立ちふさがると、血相変えてわめき立てました。
「ならぬ! ならぬ! とッて返せい! 引ッ返せいッ」
「恐れ多くも御公儀の名を騙るとは何ごとじゃッ。かくならばもう大罪人、禁札破りの大科人《おおとがにん》じゃッ。帰りませいッ、帰りませいッ。たって通行致さるるならば、お直参たりとも手は見せ申さ
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