…?」
「何を慄えているのじゃ。大事ない、大事ない。知っておらばちと尋ねたい事があるが、存じておるか」
「左様でござりましたか。あてはまた、あまり旦那はんが怕《こわ》い顔していなはりますゆえ、叱られるのやないかと思うたのでござります。お尋ねというは何でござります」
「今のあれじゃ。珠数屋の大尽じゃ」
「ああ、あれでござりまするか。あれはもうえらい鼻つまみでござりましてな。ああして所司代付きのお武家はんを用心棒に買い占めなはって、三日にあげずこの廓《さと》をわがもの顔に荒し廻っていやはりますさかい、誰もかれも、みなえらい迷惑しているのでござります」
「ほほう、ではあれなる武家達、所司代詰の役人共じゃと申すか」
「ええ、もう役人も役人も、何やら大分高いお役にいやはります方々やそうにござりますのに、どうしたことやら、あのようにお髯《ひげ》のちりを払っていやはりますさかい、お大尽がまたいいこと幸いに、小判の威光を鼻にかけて、なすことすることまるで今清盛《いまきよもり》のようでござります」
 きくや、退屈男の江戸魂は、公私二つの義憤から勃然《ぼつぜん》として燃え上がりました。歴たる公職にある者達
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