、将軍家御面前で名騎士達が駈け競うというのでしたから、なにさま当日第一の呼びものとなったのもゆえあることでしたが、やがてのことに試合始めの太鼓につれて、大坪流の古高新兵衛は逞《たくま》しい黒鹿毛《くろかげ》、八条流の黒住団七は連銭葦毛《れんせんあしげ》、上田流の兵藤十兵衛は剽悍《ひょうかん》[#ルビの「ひょうかん」は底本では「しょうかん」と誤植]な三|歳《さい》栗毛《くりげ》、最後に荒木流の江田島勘介は、ひと際逞しい鼻白鹿毛《はなじろかげ》に打跨りつつ、いずれも必勝の気をその眉宇《びう》にみなぎらして、ずらりそこに馬首を打ち揃えましたものでしたから、犬公方初め場内一統のものが、等しくどよめき立ったのは当然なことでした。
 剣を取っては江戸御免の退屈男も、馬術はまた畠違いでしたから、ひと膝乗り出して京弥に囁きました。
「打ち見たところいずれも二十七八の若者揃いのようじゃが、こうしてみると一段とまた馬術も勇ましい事よ喃」
「御意にござります。中でも葦毛の黒住団七殿と、黒鹿毛の古高殿がひと際すぐれているように存じられますな」
「左様、あの両名の気組はなにか知らぬが少し殺気立っているようじゃな
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