ついて、これも身軽にひらり塀の上におどり上がったとみえましたが、中の意外な光景に打たれたとみえて、ややおどろきながら叫びました。
「よおッ。あの六人が先廻りしておりまするな!」
「のう。よくよく斬って貰いたいと見ゆるわ。久しぶりに篠崎流を存分用いるか」
「はッ。けっこうでござりまするが、うしろの槍はなんとした者共でござりましょうな」
「言うがまでもない。あの真中にいるのが、確かに昼間見かけた黒住団七じゃ。思うに、同藩のよしみじゃとか何とか申して、はき違うべからざる武士道をはき違えおる愚か者共じゃろうよ」
「笑止千万な! では、手前も久方ぶりに揚心流を存分用いて見とうござりますゆえ、お助勢お許し下されませ」
「ならぬ」
「なぜでござります」
「退屈男の名前が廃《すた》るわ。そちはこれにてゆるゆる見物致せ」
 言うや、ひらり、体を浮かしたとみえましたが、およそ不敵無双です。槍、剣《つるぎ》、合わしたならば二十本にも余る白刄の林の中へ、恐るる色もなくぱッとおどりおりました。
 しかも自若《じじゃく》としてそこに生えたるもののごとくおり立つと、腰の物を抜き合わそうともせず、あの凄艶《せいえん》
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