無比な額なる三日月形の疵痕を、まばたく星あかりにくっきり浮き上がらせながら、静かに威嚇して言いました。
「よくみい! この疵痕がだんだん怖うなって参るぞ。抜かば斬らずにおけぬが篠崎流の奥義じゃ。いってもよいか」
しかし、相手の前衛を勤める六人の浪人共は、今、もう必死とみえて、いずれも呼吸のみ荒めながら無言でした。
「ほほう。大分、胸に波を打たせて喘ぎおるな。しかし、真中の市毛甚之丞! そちには小塚ッ原で、獄門台が待っているゆえ、今宵は生かしておいてつかわすぞ。では、左の二人、参るぞ」
物静かに呟きながら、大きく腰がひねられたかと見えた途端!――きらり、玉散る銀蛇が、星月宵にしゅッと閃めいたと見えるや、実にぞっと胸のすく程な早技でした。声もなく左の二人が、言った通りそこへぱたり、ぱたりとのけぞりました。同時に退屈男の涼しげな威嚇――。
「みい!――今度は右側の三人じゃ。参るぞ」
言いつつ、片手正眼に得物を擬して、すい、すい、と一二歩近よったかと思われましたが、殆んどそれと同時でした。
「生兵法を致すゆえ、大切な命をおとさねばならぬのじゃ。そら! 一緒に遠いところへ参れ」
一歩、さ
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