に急いで仕立てながら、京弥いち人のみを引き随えて、ただちに黒住団七の禄を喰《は》む、宇都宮九万石の主、奥平美作守昌章《おくだいらみまさかのかみまさあき》の上屋敷に行き向いました。またこれが許しておかれる筈はない。わが江戸旗本中の旗本男たる早乙女主水之介の三河ながらなる正義観において、憎むべき黒住団七が許しておかれる筈はないのです。よし仮りに、奥平美作守が、九万石封主の力を借りて、これを庇《かば》い立てすることあるも、われわれにはまた直参旗本の威権あり! 篠崎流奥義の腕にかけても、やわか許すまじと、真に颯爽としながら打ち乗って、一路、美作守上屋敷なる麻布《あざぶ》六本木へ急がせました。

       四

 行くほどに青葉がくれの陽はおちて、ひたひたと押し迫ったものは、夕六ツ下がりの紫紺流した宵闇です。
 然るに、こはそも何ごとぞ!――まだそんな門限の刻限ではないのに、さながら退屈男の乗り込んで行くのを看破りでもしたかのごとく、奥平屋敷の江戸詰藩士小屋を抱え込んだお長屋門が、ぴたりと閉じられてありましたので、乗りつけるや、怒髪《どはつ》して退屈男が呼び叫びました。
「早乙女主水之介、直
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