でごぜえます」
「馬鹿者ッ」
「へえい?」
「ずうずうしゅう、へえいとは何ごとじゃ。主人に危難来ると知らば、身を楯にしても防ぐベきが当り前なのに、自ら手伝って、死に至らしむるとは不埓者めがッ」
「へえい。それもこれも元はと言えば、バクチが好きのさせたわざ――、たった三十両の端《はし》た資本《もとで》に目が眩《くら》みまして、何ともはや面目次第もごぜえませぬ。この通り、もう後悔してござりますゆえ、お手やわらかに願います」
「虫のよい事申すな! 立てッ」
「へえい?」
「立てと申すに立たぬか」
「痛えい! 立ちますよ。立ちますよ。そんなにお手荒な事をなさらずとも、立てと言えば立ちますが、一体どこへ御引立てなさるんでござりますか」
「くどう申すな。行けッ」
引立てながら道の途中で見つかったそこの自身番へ、小突き入れると、事もなげに言いました。
「この下郎めは、三十両の目腐れ金で、大切な主人の命を売った不埓者《ふらちもの》じゃ。早乙女主水之介、約束通り土産一匹つかわすとこのように申し伝えて、今ただちに南町御番所の水島宇右衛門なる与力の許へ引立てて参れ」
言いおくと、通り合わせた町駕籠を急ぎ
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