というんだね、なかなか抜け目のない悪企みをしたんでごぜえますよ」
「きけば聞く程奇怪な事ばかりじゃが、何のためにまた黒住団七めは、そのような悪企み致しおった」
「知れた事でござんさあ、あの時、降って湧いたように姿をお見せなすった、あの別嬪《べっぴん》の女の子が目あてだったのでごぜえますよ」
「なに!?[#「!?」は横一列] では、あれなる腰元、あの早駈けに勝を占めた者へお下しなさるとでも賭けがしてあったか」
「へえい。ご存じかどうか知りませぬが、あの別嬪の女の子は御台様付《みだいさまつき》の腰元中で、一番のご縹緻《きりょう》よしじゃとか申しましてな、お上様をあしざまに申し上げるようでごぜえますが、あの通り、御酔狂な御公方様の事でごぜえますので、ほかに何か下されりゃいいのに、別嬪を下げつかわすとおっしゃったものでごぜえますから、お腹黒い黒住の旦那が、女ほしさに、とうとうあんな悪企みをしたんでごぜえますよ。それっていうのが、手前方の旦那様があの四人のうちじゃ、一番の御名手でごぜえましたからね、それがおっかなくて、うちの旦那様だけを、ほかには罪もねえのにあんなむごい目にも遭わせる気になったん
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