ったんだ!」
「血のめぐりがわるい下郎共よ喃。退屈男が御手ずから参ったからには、只用ではない。それなる中間の六松に用があるのじゃ」
 途端――。
 市毛甚之丞が、ちらり八人の者になにか目くばせしたかと見えましたが、同時でした。
「そうか。六松に用あってうしゃがったと分りゃ、あの毒蛇の一件を嗅ぎつけやがったに相違ねえ。各々ッ、いずれはこんなことにもなるじゃろうと存じて、今、お腰の物にも研ぎを入れて貰うたのじゃ。出がけの駄賃に、それッ、抜かり給うなッ」
 問いもしないうちに、うろたえながら毒蛇の一件を言い叫ぶと、下知と共に素早く六松をうしろへ庇《かば》いながら、八人の者へ助勢を促したので、退屈男の色めき立ったのは言う迄もないことでしたが、しかし、両手は依然懐中のまま――。そして、静かに威嚇いたしました。
「馬鹿者共めがッ。江戸御免の篠崎流正眼崩しを存ぜぬかッ。その菜切《なっき》り庖丁をおとなしゅう引けッ」
 だのに、身の程もわきまえぬ鼠輩共《そはいども》です。蟷螂《とうろう》の竜車《りゅうしゃ》に刄向うよりもなお愚《おろ》かしき手向いだてと思われるのに、引きもせずじりじりと、爪先立ちになっ
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