を抜きつれて、各自それぞれに刀身へ見入りつつ、見るから妖々とした殺気をそこにみなぎらしていましたので、退屈男のいぶかしく思ったのは当然、いや、より以上に打ちおどろいたのは、十人の面々でした。ぎょッとたじろいだようにいずれも面《おもて》をあげて、一斉に退屈男の上から下を見あげ見おろしていましたが、中なるひとりが早くもあの額際のぐっと深く抉られた三日月形で気がついたものか、その顔を蒼めて言い叫びました。
「さては、早乙女主水之介じゃな!」
しかし、退屈男は無言でした。黙然と両手を懐中にしたままで、じっと九人の者を静かに只にらめすえたばかり――。
とみて、苛立ったごとくに、いな、むしろ、無言のその威嚇に不気味さが募りまさったもののごとくに、甚之丞がじろじろと今迄見改めていた強刀を引きよせると、同じく唇まで蒼めながら叫びました。
「案内も乞わず何しに参った!」
きくや、依然ふところ手のままで、ほのぼのとした微笑をその唇にのせていましたが、冷たく錆のある太い声が、ようやく主水之介の口から重々しく放たれました。
「退屈払いに参ったのじゃ、びっくり致したか」
「なにッ? 何の用があってうしゃが
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