。北町か、南町か」
「………」
「食物が悪いとみえて、疑ぐり深う育っている喃。そち達の瘠せ手柄横取りしたとて、何の足しにもなる退屈男でないわ。姓名を名乗らば下手人見つかり次第進物にしてつかわすが、何と申す奴じゃ」
「南町御番所の与力《よりき》、水島宇右衛門と申しまするでござります」
「現金な奴めが。了見の狭いところが少し気に入らぬが、力を貸してつかわすゆえに、家へ帰ったならば家内共に熱燗《あつかん》でもつけさせて、首長う待っていろよ」
退屈男らしく皮肉を残しておくと、京弥を随えながら、なにはともかくと、中間馬丁達の詰め所にやって行きました。
無論その目的は、疑問の怪死を遂げた古高新兵衛の馬丁について、何等かあの金色《こんじき》ハブの手掛りを嗅ぎつけようと言うつもりからでしたが、然るに、それなる馬丁が甚だ不都合でした。主人が横死をしたというのに、その現場へ姿を見せない事からして大きな不審でした。行ってみるとさらに大きな疑雲を残して、いずれかへ逸早く姿をかくしたあとでしたから、退屈男の言葉の鋭く冴えたのは言うまでもないことでした。
「いつ頃|逐電《ちくでん》いたしたか存ぜぬか!」
「ほ
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