るべき毒蛇金色ハブでしたから、いかな退屈男も、これにはしたたかぎょっとなりました。無理もない。ぎょっとなったのも、またおよそ無理のないことでした。事実は計らずもここに至って、二つの奇怪な謎を生じたわけだからです。第一は黒住団七を狙った鉄扇の投げ手。第二は毒蛇を潜ませて、古高新兵衛を害《あや》めた下手人。しかも、それが同一人の手によって行なわれたものか、全然目的を異にした二つの見えざる敵が、めいめい別々に二人の騎士を狙って、それが危害を加えようとしたものか、謎は俄然いくつかの疑問を生んで参りましたので、退屈男の蒼白だった面に、ほのぼのと血の色がみなぎりのぼりました。
「のう、こりゃ、町役人」
「………」
畠違いの者が邪魔っけだと言わぬばかりに罵ったその広言の手前、いたたまれない程に恥ずかしくなったものか、さしうつむいて返事も出来ずにいるのを、笑い笑い近よると、揶揄するように言いました。
「真赤になっているところをみると、少しは人がましいところがあるとみゆるな。わしはなにもそち達の邪魔をしようというのではない。只、退屈払いになりさえすればよいゆえ、手伝うてつかわすが、どちらの番所の者じゃ
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