かったのが丁度五ツ頃――
 と――はしなくもその四ツ辻を向うへ通り過ぎようとした、七八人の供揃いいかめしい一挺の駕籠が、退屈男の目を射ぬきました。駕籠そのものは、高々二三万石位の小大名らしい化粧駕籠というだけの事でしたから、一向に何も不審なところはなかったが、強く退屈男の注意を惹いたのは、その供揃いの者達のいぶかしい足どりです。どことなく板につかない節が見えたので、慧眼そのもののような鋭い囁きが、すぐと権之兵衛のところに飛んでいきました。
「兵衛、兵衛。どうやら少し匂いがして参ったぞ。あの供の奴等の腰つきをみい!」
「何ぞ奇態な品でも、ぶら下げておりまするか」
「品が下がっているのではない、あの腰つきなのじゃ。根っからの侍共なら、あのように大小を重たげにさしてはいぬわ。打ち見たところいずれも大小に引きずられているような様子――ちとこれは百化けの匂いが致して参ったぞ」
 囁きながら歩度を伸ばして、ぴたり塀ぎわに身を寄せたとき、それとも気づかないで怪しの供が、丁度そこへ行きかかった京弥の女装姿を見かけて、ふと、列を割りながら近づいたようでしたが、まもなく呼びかけた声がきかれました。
「これ
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