夫にござります。では、すぐさま手配をいたしまして、のち程またお屋敷の方へ参じますゆえ、お待ち下されませ」
先刻京弥から見舞われた太股の疵の痛みを物ともしないで、欣舞《きんぷ》しながら非人姿の杉浦権之兵衛が立去りましたので、主水之介もまた直ちに駕籠を屋敷へ引き返させました。
四
やがてのことにしっとりと花曇りの日は暮れて、ひたひたと押し迫って来たものは、一刻千金と折紙のつけられているあの春の宵です。その宵の六ツ半頃――。
「御前……」
先程の非人姿だった杉浦権之兵衛が、いつのまにか小ざっぱりとした姿に変りながら、甲斐々々しく復命に立ちかえって来たので、退屈男も様子いかにときき尋ねました。
「大分早いようじゃな。江戸一円に触れさせるとあらば、容易な手数ではなさそうじゃが、いかがいたした」
「いえもう、こういう事ならば手前がお手のものでござります。若い奴等を十人ばかりもかき集めましてな、第一に先ず御前には縁の深い、曲輪五丁街へ触れさせなくてはと存じまして、早速お言いつけ通り口から口ヘ広めさせましたところ、御名前の御広大なのにはいささか手前も驚きましてござりまするよ――
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