のように百化け致しおっても、身共がこの世に生きてこの目を光らしておる限りは、頤の疵が目印になって正体を見現わさるるゆえ、それが怖うてこの主水之介を亡きものに致そうとしたのであろうよ」
「そうでござりましたか。御前に迄もそのような大それた真似をするとは呆れた奴でござります。では、お力添え下さりますか」
「いかにも腕貸ししてつかわそう! 番所の方も亦、復職出来るよう骨折ってつかわすゆえ、安心せい」
 千|鈞《きん》の重味を示しながら断乎と言い放って、何かやや暫し打ち考えていましたが、不意に言葉を改めると、猪突に杉浦権之兵衛へ命じました。
「では善は急げじゃ。在職中の配下手先なぞもあろうゆえ、その者共を出来るだけ大勢使って、旗本退屈男の早乙女主水之介は、今朝よそから到来の鯛を食して、敢《あえ》なく毒殺された、とこのように江戸中へ触れ歩かせい」
「奇態な御諚でござりまするが、それはまた何の為でござります」
「知れたこと。さすれば身共が死んだことと思うて、百化け十吉めが安心いたして、また江戸の市中に出没いたし、魔の手を伸ばすに相違ないゆえ、そこを目にかかり次第引ッ捕えるのじゃ」
「いかさまよい工
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