婦女子と見ると、いつのまにかこれをたらしこみ、散々に己れが弄んだ上で沢山な手下と連絡をとり、不届至極にも長崎の異人奴《いじんめ》に売りおる奴でござります」
「なに!?[#「!?」は横一列] 不埒《ふらち》な奴よ喃《のう》。――それきかばもう、この主水之介が棄ておけずなったわ。ようしッ、身共が今日よりそちの力となってつかわそうぞ」
「そ、それはまた不意に何とした仔細にござります! よし、お怪我はなかったにしても、一度は御前に不届な種ガ島を向けたわたくし、このままお手討になりましょうとも、お力添えとは少しく異な御諚《ごじょう》ではござりませぬか」
「一つは公憤、二つにはそちをそのような不幸に陥入れた罪滅ぼしからじゃ。それにあ奴め、この主水之介を毒殺しようと致しおったぞ」
「何でござります! そ、それはまた、どうした仔細からにござります」
「そちから今、十吉めの素性をきいて、ようようはっきり納得いたしたが、実は身共も奴めが少し不審と存じたゆえ、あの夜逃がしてつかわす砌《みぎり》、もしや重罪人であってはならぬと、のちのち迄の見覚えに、奴めの頤《あご》に目印の疵をつけておいたのじゃ。それゆえ、ど
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