前はあ奴《やつ》が何者であるともご存じなくてお庇いなさったのでござりまするか」
「無論じゃ。無論じゃ。存じていたら身共とて滅多に庇い立ては出来なかったやも知れぬよ」
「そうでござりましたか。実は御前があ奴の身の上を御承知の上で、尻押しなさったのじゃろうと邪推致しましたゆえ、ついカッとなりまして、あの翌る日職を奪われました時から、こうしてお出ましの折をつけ狙っていたのでござりまするが、そうと分らば手前の腹の虫も大分|癒《い》えてござります。何をかくそう、あ奴めは、百化け十吉と仇名のお尋ね者にござりまするよ」
「奇態な名前のようじゃが、変装でもが巧みな奴か」
「はっ。時とすると女になったり、ある時はまた盲目になったり、自由自在に姿形を化け変えるが巧みな奴ゆえ、そのような仇名があるのでござります。それゆえ、これ迄も屡々町役人の目を掠《かす》めておりましたが、ようようと手前が眼《がん》をつけましたゆえ、あの夜手柄にしようと追うて参ったところでござりました」
「ほほうそうか。いや、許せ、許せ。一体そのように化けおって何を致すのじゃ」
「奇態に女を蕩《とろ》かす術《すべ》を心得おりまして、みめよき
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