痛手にこらえかねて、身をよろめかしたとき、ひらひらと京弥の小姓袴が、艶《えん》に美しく翻えったと見えましたが、ばっと対手のふところに飛び入ると、刹那に施されたものは遠気当《とおきあ》て身の秘術でした。
「ざまをみろッ、卑怯者ッ」
ばたりとそこへ非人をのけぞらしておくと、何はともかく主水之介の安否が気がかりでしたから、取り急いで駕籠側へ駈けかえると、何とこはそもいかに! ――悠然と垂れを排しつつ、微笑しいしい姿を見せた者は余人ならぬ退屈男です。しかも、至って事もなげに言うのでした。
「これはどうも、いやはや、ずんと面白いわい。段々と退屈でのうなりおったな」
「では、あの、お怪我をなさったのではござりませなんだか!」
「南蛮の妖器《ようき》ぐらいに、江戸御免の退屈男が、みすみす命失ってなるものかッ。この通り至極息災じゃ」
「でも、ううむと言う、お苦しそうな呻き声があったではござりませぬか!」
「そこじゃそこじゃ。人と人の争いは武器でもない。技ばかりでもない。智恵ぞよ、智恵ぞよ。この主水之介の命など狙う身の程知らずだけあって、愚かな奴めが、わしの兵術にかかったのさ。早くも胡散《うさん》な奴
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