と知ったゆえ、二度目に駕籠脇へ近よろうとした前、篠崎竹雲斎《しのぎきちくうんさい》先生《せんせい》お直伝《じきでん》の兵法をちょっと小出しに致して、ぴたり駕籠の天井に吸いついていたのじゃよ」
「ま! さすがはお殿様にござります。京弥ほとほと感服仕りました」
「いや、そちの手並も、弱年ながらなかなか天晴れじゃ。これでは妹菊めの参るのも無理がないわい。――では、どのような奴か人相一見いたそうか」
言うと、泡を吹かんばかりに悶絶したままでいる非人の側へ騒がずに歩みよったかと見えましたが、ぱッと片足をあげると、活代《かつがわ》りに、相手の脾腹《ひばら》のあたりを強く蹴返しました。一緒に呼吸をふきかえして、きょときょとあたりを見廻していた非人の面《おもて》をじろりと見眺めていましたが、おどろいたもののごとく言いました。
「よッ。姿かたちこそ非人に扮《つく》っているが、まさしくそなたは前夜のあの町方役人じゃな」
まことに、意外から奇怪へ、奇怪から意外へ、つづきもつづいた出来事ばかりと言うべきでしたが、気がつくと同時にぎょッと非人のおどろいたのも亦当然なことです。
「しまったッ。さてはまんまと計
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