が、あっと思う間に轟然と打ち放しました。
「馬、馬鹿者ッ、何を致すかッ」
身には揚心流小太刀の奥義《おうぎ》があっても、何しろ対手の武器は飛び道具でしたから、叫びつつも京弥がたじろいでいるとき、再びぱッときな臭い煙硝《えんしょう》の匂いが散るや一緒で、第二発目が轟然とまた駕籠中目ざしながら放たれました。
と同時に、何たる不覚であったか、江戸名物退屈男ともあろう者が、思いのほかの不覚さで、脆くも急所をやられでもしたかの如く、ううむ、と言う呻き声を駕籠の中からあげましたので、ぎょッとなったのは言う迄もなく京弥です。
「殿様! 殿様!」
安否を気づかって駈けよろうとしましたが、と見てそのとき――、
「ざまアみやがれッ。命さえ貰って了えばもう用はないわッ」
棄て白《せりふ》を残しつつ、不逞の非人が、逸早く逃げ延びようとしかけたので、事は先ず対手を捕えるが急! 京弥のふと心づいたのは手裏剣《しゅりけん》の一手です。
「卑怯者めがッ、待てッ」
呼びかけるとその右手に擬したるは小柄《こづか》。
「命知らずめッ。うぬも見舞ってほしいか」
振り返ると非人がまた右手に種ガ島を擬しました。
一
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