とになりつ、先になりつ、駕籠を尾行《つけ》出しましたので、時が時でしたから京弥がいぶかしんでいると、青竹杖をつきつつ、よろよろと近づいて来て、いきなり垂れの中の主水之介に呼びかけました。
「御大身の御方とお見受け申しまして、御合力《ごごうりょく》をいたします。この通り起居《たちい》も不自由な非人めにござりますゆえ、思召しの程お恵みなされて下さりませ」
「汚ない! 寄るなッ、寄るなッ」
 慌てて京弥が制しましたが、非人は屈せずあとを追いかけながら、駕籠側に近よって来ると、再びうるさく呼びかけました。
「汚ない者なればこそ、合力いたすのでござります。そのように御無態《ごむたい》なことを申しませずに、いか程でもよろしゅうござりますゆえ、お恵み下さりませ」
「寄るなと言うたら寄るなッ」
 しかしその刹那《せつな》でした。
「何を吐かしやがるんだッ。ほしいものは金じゃねえ、主水之介の命なんだッ。要らぬ邪魔立てすると、うぬの命もないぞッ」
 突如、非人が意外な罵声《ばせい》をあげると、やにわに懐中からかくしもった種ガ島の短銃を取り出して、駕籠の中をめざしつつ右手《めて》に擬《ぎ》したかと見えました
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