役人共に聞き訊ねた上で、事と次第によらばこの主水之介が料《りょう》ってつかわすのじゃ」
「分りました。では、お邪魔にござりましょうが、手前もお供にお連れ下さりませ」
「ほほう、そちも参ると申すか。でも、菊が何と申すか、それを聞いた上でなくばわしは知らぬぞ」
「またしてもご冗談ばっかり――それは、それ、これはこれでござりますゆえ、お連れなされて下さりませ。実はあまり家《や》のうちばかりに引き籠ってでござりますゆえ、近頃腕が鳴ってならぬのでござります」
「わしの退屈|病《やまい》にかぶれかかって参ったな。ではよいよい、気ままにいたせ」
 雀躍《じゃくやく》として京弥が供揃いの用意を整えて参りましたので、退屈男は直ちに駕籠を呉服橋の北町御番所めざして打たせることになりました。

       三

 しかし、駕籠が門を出ると同時です。そこの築地《ついじ》を向うにはずれた藪だたみのところに、見るから風体《ふうてい》の汚ないいち人の非人が、午下《ひるさが》りの陽光を浴びて、うつらうつらとその時迄居眠りをつづけていましたが、足音をきくとやにわにむくりと起き上がりながら、胡乱《うろん》なまなざしであ
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