、かような大それた真似をしたのでござりましょう」
「察するにあの夜、頤《あご》の下に疵をつけておいて帰したゆえ、その目印しを知っているわしを生かしておくのが、何かと邪魔に思えたからであろうよ。それだけにあ奴《やつ》、存外の大悪党かも知れぬぞ」
 言いつつ、これはまたどうやら退屈払いが出来そうになったかなと言わぬばかりで、にんめりと微笑していましたが、突然京弥に命じました。
「御苦労じゃが、駕籠の用意をさせてくれぬか」
「不意に白昼、駕籠なぞお召し遊ばしまして、どこへ御出ましにござります」
「知れたこと、北町奉行所じゃ」
「では、あの、前夜あの者|奴《め》をお庇《かば》い遊ばしたことを、お詫び[#「お詫び」は底本では「お詑び」と誤植]に参るのでござりまするか」
「詫び[#「詫び」は底本では「詑び」と誤植]に行くのではない。早乙女主水之介と知って匿まえと申しおったゆえ、直参旗本の意気地を立つるために、あの夜はあのように庇うてつかわしたが、それゆえに天下の重罪人を存ぜぬ事とは言い条、野放しにさせたとあっては、これまた旗本の面目のためほってはおけぬ。どのような不審の廉《かど》ある奴か、奉行所の
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