る品を平らげてしまいました。
然るにいささかこれが奇態です。黒血を吐き垂らしている工合といい、贈り主の気にかかる男であった点といい、もしや何ぞ不届きな仕組みでもありはしないかと思われたればこそ試食もさせたのに、予想を裏切って野良猫は、ぺろぺろとおいしそうに頂戴してしまうと、至って堪能した顔つきをしながら、一向に平然として立ち去ろうとしたので、はて疑ぐりすぎたかなと思いながら、いぶかしんで見詰めていると、だが――その二瞬とたたない途端です。五足六足行きすぎたかと思われましたが、果然、野良猫が足をとられて、ころりとそこに打ち倒れると、いとも不気味な呻き声をあげながら、断末魔の苦悶を現して、たらたらと黒血を吐き垂らし出しましたので、ぎょッとしたのは京弥でした。
「よよッ、何としたのでござりましょう! やっぱり毒でも仕掛けてあったようにござりましたな」
「左様。まさしく鴆毒《ちんどく》じゃ」
「えッ。では、あの怪しい男め、お殿様のお命を縮め奉ろうとしたのでござりましょうか」
「然り――」
「不届きな! あれ程の大恩をうけましたのに、恩を仇で返すとは、また何としたのでござりましょう。何がゆえに
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