《きも》の太さはそれ以上でした。
「ウッフフ。並んでいるな。いや、御苦労じゃ。御苦労じゃ。では、京弥どの、今頃泣き濡れて生きた心持もせずに待ち焦れている者があるゆえ、先を急ごうよ。馬鹿者共の腐り血を見たとて、何の足しにもならぬからな。――それからお杉の方にひとこと申しておきますが、折角ながらこの可愛い奴は、手前が家の土産に貰って参りまするぞ。あとにて河原者《かわらもの》なと幇間《たいこ》なと、お気が済む迄お可愛いがりなさいませよ。では、そろそろ参るかのう」
言いつつすっぽりと面《おもて》を包んで、京弥を後ろに随えると、不敵にも懐手をやったまま、刄《やいば》の林目がけてすいすいと歩み近づきました。だのに伝九郎の一党が、一指をさえも染める事が出来ないから奇態です。これが人の五体から放たれる剣の奥義のすばらしい威力と言うものに違いないが、退屈男の物静かな歩みがすいと一歩近よると、たじたじと二歩、剣の林があとへ引き、また一歩すいと行くと、三歩またたじたじとあとへ退《の》き、しかもとうとう一太刀すらも挑みかかり得ないうちに、両人の姿は悠揚と表の方へ行き去ってしまいました。
しかしその表には、
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