しょうと、君侯《との》のお目をかすめ奉って、左様な道ならぬ不義は霧島京弥、命にかけても相成りませぬ。それにまた――」
「ほかに契り交わした者があるゆえ、その者へ操を立てる上にもならなかったと、申さるるか」
「はっ……。お察しなされて下されませ」
「いや、よくぞ申された。それ聞かばさぞかし菊路も――いや、その契り交わした者とやらも泣いて喜ぶことでござろうよ。その者の兄もまたそれを聞かば、きっと喜ぶでござりましょうよ。だが、少し不審じゃな。お杉の方と言えば仮りにも十二万石の息のかかったお愛妾。にも拘らず、かような場所へそこ許《もと》を掠《さら》って参るとは、またどうしたことじゃ」
「別にそれとて不審はござりませぬ。こちらの丁字様は以前お屋敷に御奉公のお腰元でござりましたのが、故あってこの廓《さと》に身を沈めましたので、そのよしみを辿ってお杉の方様が、手前にあのような偽《にせ》の手紙を遣わしまして、まんまとこのような淫らがましいところへ誘《いざな》い運び、いやがるものを無理矢理に、今ごらんのようなお振舞いを遊ばされたのでござります」
 言ったとき――、物音で知ったものか、強刀《ごうとう》をひ
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