けました。
「ま! その三日月形の傷痕は……」
「身をかくそうとしても、もうおそうござるわ!」
おどろいて逃げ出そうとしたお杉の方をずばりと重々しい一言で威嚇しておくと、京弥の方へ向き直ってきき尋ねました。
「先程、仲之町で消え失せたのは、菊路の兄がわしと知ってはいても、会ったことがなかったゆえに、見咎められては恥ずかしいと、それゆえ逃げなさったのじゃな」
「はっ……、御礼も申さずに失礼してでござりました」
「いや、そうと分らば却っていじらしさが増す位のものじゃ。もはやこの様子を見た以上聞かいでも大凡《おおよそ》の事は察しがつくが、でも念のために承わろう。一体いかがいたしたのじゃ」
お杉の方に気がねでもあるかのごとく、もじもじと京弥が言いもよったので、退屈男は千|鈞《きん》の重みある声音《こわね》で強く言いました。
「大事ない! 早乙女主水之介が天下お直参の威権にかけても後楯となってつかわすゆえ、かくさず申して見られよ」
「では申しまするが、お杉の方が久しい前から手前に――」
「身分を弁《わきま》えぬ横恋慕致して、言い迫ったとでも申さるるか」
「はっ……。なれども、いかに仰せられま
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