、かたじけない。丸に丁の字を染めぬいた看板の持主はどこの太夫さんじゃったかな」
「ま! 曲輪がお家のような主さんでありいすのに。その紋どころならば、王岸楼の丁字花魁ではありいせぬか」
「おう左様か左様か。その丁字花魁の様子をこっそり探って来てほしいのじゃがな。いってくれるか」
「そしたら、わちきの願いも叶えてくんなますかえ」
「風と日和《ひより》次第、ずい分と叶えまいものでもないによって、行くなら早う行って来てくれぬか」
 喜び勇みながら出ていったと思うやまもなく色めき立って帰って来ると、おどろくべき報告をいたしました。
「いぶかしいお客様方ではありいせぬか、丁字さんのところには、由緒ありげな女子《おなご》のお客さんに、美しい若衆が御一緒で、ほかに六七人程も乱暴そうなお武家さんが御一座してざましたよ」
「なにッ、若衆に女子の客とな?――ご苦労じゃった。今宵は許せ。また会うぞ」
 颯爽として立ち上がると、例の宗十郎頭巾のままで、ただちに行き向ったところは揚屋町の王岸楼でした。
「主水之介じゃ。丁字太夫にちと急用があるによって、このまま通って行くぞ」
 言いすてながらずかずかと上がって行く
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