されましたのでござります」
「なに? 行方《ゆきがた》知れずになったとな? それはまた、何時頃の事じゃった」
「お兄様がお帰り遊ばしましたほんの四半|刻《とき》程前に、お使いの方が探しがてら参られたのでござります」
「ほほうのう――」
 少しこれは世の中が退屈でなくなったかなと言わぬばかりに、しみじみとした面《おもて》を愛妹菊路の方にさし向けて、なに事かをややしばし考えつめていましたが、俄然旗本退屈男と異名をとった早乙女主水之介は、その目にいつにないらんらんとした輝きをみせると、言葉さえも強めながら言いました。
「よし、相分った。では、この兄の力を貸せと申すのじゃな」
「あい……。このような淫《みだ》らがましい事をお願いしてよいやらわるいやら分らぬのでござりますけれど、わたしひとりの力では工夫《くふう》もつきませなんだゆえ、先程からお帰りを今か今かとお待ちしていたのでござります」
「そうか。いや、なかなか面白そうじゃわい。わしはろくろく恋の味も知らずにすごして参ったが、人の恋路の手助けをするのも、存外にわるい気持のしないもののようじゃ。それに、ほかの探し物ならわしなんぞ小面倒臭うて、手
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